戦後間もない高度成長期の日本。
祖父の出資により、探偵事務所を開業した「東京都繰子」は、
仕事もないまま退屈な日々を持て余していた。
そんなある日、繰子の前に一人の依頼人が現れる。
名は「土喰美禰子」。
「実は……夫(土喰鉄馬)が行方不明になりまして……」
どこか怪しいと感じながらも、繰子は夫人の話に耳を傾けた。
「ここ最近――私生活を誰かに覗かれている気がするのです」
――その瞬間から、全ての歯車は狂い始める。
著名な官能小説家でもある土喰鉄馬の担当編集者である設楽慎太郎が、
鉄馬の不在を良いことに美禰子へと云い寄り始めたのだった。
元々、性的不能者だった鉄馬に対し慾求不満を感じていた美禰子だったが、
生真面目な彼女は、理性でそれを跳ね返し、夫に対して不貞をはたらくことは決してしなかった。
しかし、美禰子の堅牢な意思も、
設楽慎太郎の巧みな性技によって、ついに瓦解しはじめた。
初めて知る真実の快楽の味に、美禰子はその身を委ねていく。
間男の指が、舌が、肢体を這いずりまわる。
女は、毎夜、別の男に抱かれながら、艶やかな嬌声を夫のいない寝室にこだまさせていった。
息を潜めた獣が、すぐ側で覗いていることも知らずに……