この世に生まれ落ちる事が、生命の神秘と言うのなら……
創られし人間(モノ)はその限りではないのか。
本来の手順を持って生まれてきたモノだけが、神から受洗されると言うのならば、生命という概念は一体どういった物なのか。
それは、そこに確かに存在すると言う、物理的な因果関係が必要とでも言うのか。
水槽の中の脳は考えた。
主観しか存在し得ないこの世界において、果たして一般的に定義されている生命という物が現実にあるのだろうか。
仮定する事もままならない。
観測者も対象も、増してや結果なんてモノも存在しない。
ただ、存在するもののみが存在する。
真なのか、偽なのか、それ自体がIFなのである。
気が付くと、俺は無機質で殺風景な部屋の中にいた。
鉛色の壁に、不安定な机、決して座り心地が良いとは言えない椅子。
通気孔さえない、完全に密閉された部屋。
「ここは一体、何処なんだ……?」
自分の名前以外の事は全く思い出せない。
何故、俺はこんな場所にいるのか?
そんな閉ざされた空間の中にいたのは、たった一人の美しい少女。
「会えて、良かった」
ここはEnclosure……0と1で彩られた世界。
20立方メートルの壮大なラブストーリーが、今、始まる。