空を仰ぎ見ると、突然の白雨だった。

昼間に降り注いだ熱をたっぷりと吸い込んだアスファルトに、

大きめの雨粒がこれでもかとぶつかり果てる。

夏の風物詩といっても過言ではない一風景のはずだった。

 

雑踏の中を足早に過ぎていく人々の中に、

一人の名も知らぬ少女が愁いの表情で同じく空を見上げていた。

傘など持っていないのだろう、

その少女はあきらめたように学生鞄を傘代わりに雑踏の中を駆けだした。

少女が着ているのは夏の学生服――――雨に打たれればすぐに透けてしまう。

白い柔肌はもちろんのこと、血管すらも浮き出て見えそうだった。

少女はすぐにでも家に帰りたいと思ったに違いない……

しかしそれは致命的な判断ミスと言わざるを得ない。

人混みから抜け出し、メインストリートから外れた小さな路地の前で足を止める。

逡巡した後にそちらの路地へと足早に進んだ。

いつもならばこんな暗い夜道を選んだりはしない……表情がそう物語っている。

しかしこの状況ならば致し方ないといったところだろう。

うら若き乙女が通るにはこれほど似つかわしくない場所もそうはあるまいと思わせる。

雨の中を少女が跳ねるように闇の中を駆けて行く。

少し不安そうな表情を募らせたままに。

 

神は本当にいつも気まぐれだ。

突然の雨さえなければ――――彼女は助かったのだろうか?

 

少女がその仄暗い小道から大通りへと抜け出る刹那、湿った空気を切り裂く音が囁いた。

同時に重く低い打撃音は雑踏の喧騒に飲み込まれて雲散霧消し、

小さな悲鳴とも嗚咽ともとれぬ、ただ恐れ戦慄く声が無へと収束する。

金属バットが少女の顔面にめり込み、綺麗な顔立ちは見るも無残に変わり果てていた。

両親に助けを求めているのか、それとも神に祈りを捧げているのかわからなかったが、

小さな囀りが漏れ、身体はただ無情に痙攣を繰り返している。

金属バットをなんの躊躇いもなく振りぬいた張本人は

少女の細く青白い足首を無造作に握り、そのまま暗がりへと引きずり込んだ。

クモの巣にかかった蝶はこれからどうなるのか――――

考えるまでもない、ただひたすらに玩ばれるだけのこと。

ある意味では倫理のない摂理なのかもしれない。

 

我々はどちら側の人間なのだろうか?

殺す側?殺される側?

――――無論、殺す側であらねばならぬ。

生と死の宴の先にあるものはいったい何なのか?

それを我々は確かめねばならない。

さあ……選ぶのだ、曇りなき真理を得るために――――